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2002年4月 第21話 蕎麦と汁の相性

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蕎麦店の老舗は、蕎麦と汁を車の両輪と考え、蕎麦作りだけでなく、汁取りにも確固たる方針が決まっております。むしろ代々、汁作りの方を重視したとも言えます。
その理由は、蕎麦作りでは各店の技術が接近しすぎており、店の特徴は蕎麦の色・姿でしか出せないのに対し、 汁はその調合が微妙で、一子相伝で伝え易かったためと言えます。
「この蕎麦にはこの汁」と言う信念を持って、亡き先代達が作り上げてきたと思います。
何しろ、江戸時代は一町に四軒以上の蕎麦店があった、過当競争の時代で、微妙な配合によって味を変え、それを好む客層を得る。それでこそお互いの営業が成り立っていた訳です。
今は亡き先代達からお聞きした話を引用して、各老舗の蕎麦と汁の決め方をご紹介いたします。


当店先々代

「更科の汁は、とにかく『蕎麦の邪魔にならぬよう』に作らなくてはなりません。
そうかと言って水っぽい味のない汁ではいけない。
蕎麦自体が穏やかすぎる味ですから、醤油の香りも、出汁の臭いも、味醂のアルコール臭も、 一寸でもすると蕎麦の香りはすぐ負けてしまう。 水も一水切れた蕎麦を出すので、藪さんのような汁であっては、
すぐにからみつかれて佃煮のようになってしまう。だから醤油にも火を入れ、出汁も詰めて丸味を持たせた汁になる。」

並木藪蕎麦先代

「並木の藪の汁は辛すぎるんじゃないかと言われますが、
うちの場合、代々、うちの太さの生粉の蕎麦にあう汁はこれだと思っているから、こうなっちゃうんで、もしも、うちの蕎麦がもう少し太ければこうはなりません。
生蕎麦で打ってもっと太打ちなら、独りでに水が切れて出す蕎麦になるから、もう少し甘くなくてはなりません。うちの様に細めに切った蕎麦にはこの汁が良いと信じているわけです。」 と言った具合いで それぞれの信念が感じられる言葉です。


全体として「蕎麦と汁の相性」には

①蕎麦粉の割合が多い程汁は濃く、当たりが強い。
②蕎麦の色が濃い程当たりは強く、白い程穏やかに。
③蕎麦が細いほど汁は濃く、太くなるほど薄い。と言った傾向が見られます。
うどんは蕎麦粉を含まず太いから、関西風の、醤油気の無い、薄口で良いことになります。
余談ですが、前述二人の汁作りの極意が、
「蕎麦汁は、鰹節、醤油、砂糖、味醂が混然と融合し、何の材料でできたかが解るようでは本物でない。
何故この味を作ったかと考えさせる様に作らねば本物でない。」と言うもので、
甘い辛いの両極端の店の極意が一致する所に蕎麦汁の深さと面白さを感じる次第です。