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2005年12月 第65話  お蕎麦の太さ

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2ヶ月に渡ってお蕎麦の標準規格とも言えます「太さ」と「長さ」の約束事のお話をしてみたいと思います。
そばの「太さ」については江戸時代より職人の間で約束事が決められていたと言われております。

その太さは1.3mm。これは大変細かな数字ですが、勿論計って切るのではなく、
延ばしてたたんだ、蕎麦の生地1寸(3.03cm)の幅を基本単位として、これを何本に切るかで1本当たりの太さ・切り幅を決めたものであります。

この基本の1.3mmは生地1寸を23本に切った結果で「切りべら23本」という言葉で表します。

「切りべら」とは、包丁で切った幅が、延ばした生地の厚さより薄いことを指し、
「切って薄べったくした」という意味になります。この為、お蕎麦の断面は長方形になります。
この「切りべら23本」は、江戸の職人達の仕事のしやすさからの勝手な都合もあったように思えますが、
江戸っ子好みのつるつるとした食感にちょうどマッチした太さをも兼ね合わせていたと推察できます。

店による違いは勿論ありますが、職人仕事の基準は23本と見てよろしいようです。
当店では「更科そば」「変わりそば」「生粉打ちそば」をご存じのように、手で混ぜ、機械で切りそろえますが、この機械の切り歯のサイズ種類も「江戸蕎麦職人達の太さ」が今も踏襲されております。

ちなみに当店の蕎麦は、「切りべら20本、約1.5mm」、
変わり蕎麦は「切りべら24本、1.2mm」と定めております。
この標準の「切りべら23本」の上には、さらに細打ちの規準が存在いたします。
中細打ちで30~40本、細打ちで40~50本、極細打ちになると50~60本にもなります。
1本当たりの切り幅に換算すると、
30本で約1mm、40本で約0.7mm、50本で0.6mm、60本では0.5mmとなります。

そばを切るには包丁の技術だけでなく、正確な延ばしの技術とそれを裏付ける水廻し(粉をこねる技術)が必要ですが、ここまで細く切るには、包丁と定規の役目をする小間板と言う道具の精度も大切な要素となります。 道具に手を加え精度を高めることを含めた、江戸蕎麦職人達の技を競い合う気質の中で、
「蕎麦の太さ」「蕎麦打ちの技術」の完成が見られたことがうかがえます。

余談として「切りべら」の反対に「のしべら」と言う言葉があり、
切り幅の方が延ばした厚さより太い時に使われます。平打ちと言われる「きしめん」がその代表です。