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2005年2月 第55話  しる・つゆ・たれ

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「甘口のしるですね」  「美味しいつゆだよ」  「もう少したれを下さい」
これは全て同じもの「そば汁」を指して頂くお客様からのお言葉です。
「しる」「つゆ」「たれ」いずれも何を指しているかは解るものの、正解となる言い方は一つだと思います。

「そば汁」はこの様な字で書きますが、蕎麦屋ではこれを「そばしる」とは読まず「そばつゆ」と読みます。
また「たれ」とは決して呼びません。
「そばつゆ」には「もりじる」と「かけじる」があり「もりじるの事は辛じる」、「かけじるの事は甘じる」と呼び、
単に「つゆ」と総称いたします。その為「そば汁」は「そばつゆ」となります。
時にはこれを「下地」とも呼びますが、家庭で使われる「おしたじ」という言葉は、醤油の事を指す言葉として使われていると言うことです。

「たれ」と言う言葉は、「澄んでいて濃い、醤油と甘みの混合物」と定義されており、
「つゆ」はそのたれをダシで伸ばして薄くしたものと規定され「すまし」とも呼ばれると記されています。

「しる」となると普通は、「澄んでいないもの」を指すもので、

「味噌汁」や「けんちん汁」など、味噌や具の入った液体を指す言葉であります。
「そばつゆ」は醤油とダシと甘み(砂糖や味醂)との混合物で、具は入らず、澄んでいるものなので「つゆ」と呼ぶ事が正解となります。

この細やかな区別は関東、取り分け江戸の特徴です。
関西ではそれほど厳密な区別や表現はされていないようです。
東京と関西の相違点は、大阪で表現される「このうどんのおだしは美味しい」と言う「おだし」の意味ではないかと思われます。 関西では「おだし」と言うと、醤油味や塩味の付いた「つゆ」の事を指し、
東京で言う鰹節などの「ダシ」は「白だし」と表現し区別されています。
ですから、関西で「美味しいおだし」と言うと東京では「美味しいつゆ」と言う事になる訳です。

「そばつゆ」を「たれ」と呼ぶのは、その色が濃く、中身が濃厚だからではないでしょうか。
さらに何かを「付けて食べる」動作から来るイメージがあるからかもしれません。
「そばつゆ」は、鰻や焼き鳥のタレと違って、ダシを加えて出来上がるものです。
寿司屋さんが使う穴子の付け汁は、タレではなく「詰め(つめ)」と呼びます。
これは醤油や甘味に穴子を煮た際に出る煮汁を加え、さらに煮詰めるからだと思われます。

面白い事に「つゆ」とワープロで打っても「汁」には変換されず、「露・梅雨・液」が出てきます。
「しる」と打つと「汁」にさっと変換されます。

「そば汁」は「そばつゆ」と書くべきなのかもしれません。
日本語は難しいと思うと同時に、呼び方に意味があることを改めて感じます。
それば文化の文化たるところなのでしょう。
蕎麦の世界には、古くからの呼び方や言葉が多く存在しますが、これも蕎麦の持つ歴史の長さの証明かと思います。 違いと意味をしっかり認識し、大切に伝えていきたく思う次第です。