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2010年3月 第97話  市販のそば汁

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本格的な夏の暑さです。ご家庭でお蕎麦を食べる機会も増えるかと思います。
そこで今月は市販のそばつゆのお話です。

スーパーマーケットにまいりますと、醤油メーカーや調味料メーカーからたくさんの「そば汁」が販売されています。 生意気を言うようですが、以前よりそば専門店のそば汁とは似て非なるものと思っていました。
そば汁の原理原則を少し勘違いされている事と、近代工場の技術を持ってしても届かぬそば汁の世界を少なからず自負いたします。

もう少し良い汁を作れば売れるはず、美味しいそば汁をご家庭でお楽しみ頂けるはずだと思っておりましたが、反面そうなるといい加減なそば汁を提供するお店は困るだろうとも思っていました。
以前にもお話しいたしましたが、「そば汁」は蕎麦屋の命であり、歴史であり、技術の見せ所です。
それ故に、ナショナルメーカーが作るそば汁は良い汁悪い汁の区別をしていただく上で、老舗にとってはマイナスではないと思っていました。
そんな折り「ヤマサ醤油さん」から従来の市販製品とは一線を画す老舗蕎麦店の汁を作りたいとのお話があり、 身の程を考えずご協力することとなりました。


既存の製品と最も違う点は「鰹節のグレード」と「汁の濃さ」「醤油・だし汁・砂糖・味醂のバランス」であります。 言い換えればこの3点が老舗蕎麦店の秘伝となるものであります。
工業生産の汁が我々のそば汁に何処まで近づけるものかという興味・挑戦もありましたが、規制により不可能な蒸発という行程を除いては良いものが出来た気がしております。

鰹節は老舗のほとんどが使用する「本枯れ節」だけを使用して頂くことを条件とし、それによって既存の市販そば汁に見られる嫌な匂いをなくすことが、このそば汁の最大のコンセプトでありました。
みなさまもお気付きとは思いますが、本来のそば汁は鰹節の匂いはほとんどしないものです。
 昨今一部の蕎麦店でも、ぷーんとだしの香りのする汁を見かけますが、少なくとも代々続くそば屋ではその手のそば汁はないと確信いたしております。なぜならば、お蕎麦の香りを大切にする蕎麦店にとって、これほど邪魔なものはないからです。その為の「本枯れ節」であり、その為のだし取りの技術なのだと私は考えております。

さてもう一つのコンセプトはバランスと濃さであります。
老舗の必須条件であるそば汁の濃さを踏襲する為に今までの市販の汁にないだしの濃さをお願いいたしました。バランスとなる甘い、辛いは、これらの基本の上での店の特徴ですので、当店の味に近づけさせていただきました(と言っても同じではありませんが・・)そんな意味での作り方の直伝として
ヤマサ醤油さんより「江戸蕎麦 大門更科布屋直伝 せいろつゆ」と言う名で売り出されますが、如何相成りますでしょうか?