トップ > 店主の独り言 > 2022年12月 第182話 冬を楽しむ

hitorigoto_main.jpg

2022年12月 第182話 冬を楽しむ

一覧へ戻る

ここ何十年も地球温暖化が議論されて久しいが冬本番を迎えるこれからの時期はやはり寒さが身に浸みます。
こんな事を言うと「昔はもっと寒かった」と先輩方にはたしなめられますし、更に昔を考えると江戸の町は凍える程寒かったと言われています。しかも暖をとる手段も今とは比べる事ができない程限られていたはずです。
しかし江戸っ子たちはそんな寒ささえも逆手にとって楽しんでいたそうです。へそ曲がりも江戸っ子の心意気の一つだったのでしょう。
歌川広重に代表される浮世絵「江戸名所百景」に雪景色の街々が多く描かれている事からも分かるように江戸っ子たちは春の花見や秋の月見と同様に冬は雪見をして寒さと雪を楽しんでいたようです。雪を見ながら盃を傾ける「雪見酒」が粋人の風流な冬の楽しみ方でした。余談になりますが広重の描く冬の雪景色は江戸名所百景でも東海道五十三次でも人気がひときわ高くお値段も高くなっています。

その他の冬の楽しみの一つは「ゆず湯」ではないでしょうか。冬至にゆずを浮かべた風呂に入る習慣も江戸時代に始まったもので「ゆず湯に入ると風邪をひかない」という言い伝えがあります。変わりそばが十八番の当店でも「ゆず切りそば」は師走の定番です。
毎年600~800個のゆずの皮を剥いてすりつぶしお蕎麦に打ち込みます。中身は使わない事になっていますので、店の者たちにも持たせて毎日皆でゆず湯を楽しんでいる次第です。ゆずの皮は血液の循環を良くしますし疲労回復や美肌効果もあるとされています。
師走のこの時期ならではの、ゆず湯とゆず切りそばをぜひお楽しみ頂きたいと思います。食に関しても冬の楽しみはまだ多くあります。鱈や鮟鱇や鰆や鰤は冬を代表する旬の魚で鍋にして冬を味わうのが江戸の食事事情だったと言われています。さらには冬になると大陸から渡ってくる鴨は今も変わらぬ冬の人気食材でした。お歳暮として塩鮭や干鯛と並ぶ人気品で鴨が届くと顔がほころぶと言う記述があります。蕎麦屋でも「鴨南蛮」は冬一番の人気商品です。鴨の油が染み出したそば汁は他にないコクを味わって頂ける逸品です。

さて、年の瀬の慌ただしさの中でも、厳しい季節の中にも楽しみを見つける心意気が他にない江戸っ子の江戸っ子たる所以なのでしょう、そんな生き方が他の国にない独自の文化を生み出したと言える気が致します。1995年11月に始めたこの独り言も今年で丸27年となりました。駄文をお読み頂き有難い限りです。穏やかな年の瀬と共に2023年が皆様方にとって良い年になる事を願い今年の打ち止めと致します。本年もご贔屓頂き有難うございました。
 追記:大晦日は22:30まで営業させて頂きます。年明けは1月4日より平常営業致します。