トップ > 店主の独り言 > 2003年1月 第30話  美味しいお蕎麦

hitorigoto_main.jpg

2003年1月 第30話  美味しいお蕎麦

一覧へ戻る

お客様の間では、お蕎麦の良し悪しを語るとき「コシ」が大きな関心事となるようです。
我々蕎麦店の店主は、まず原料となる蕎麦粉選びから入りますので、その最大の関心事は「香り」となります。 原料の厳選によってお蕎麦の持つ香りは100%決定し、技術では補えないからです。
良い蕎麦粉はよい香りに加え、適度な水分を持つことがもう一つの条件で、この水分が「コシ」に大きな影響を与えます。しかし良い蕎麦粉を手に入れても作り方がまずくては「コシ」としてお客様にお目にかけることはできません。
「コシ」を生み出す最も重要なポイントは「水回しとくくり」と言う作業です。
蕎麦粉と水を丁寧に混ぜ合わせ、さらにしっかりと揉み込むこの2つの作業無くしては、皆様のご期待に応えられる「コシ」は生まれません。


現在の日本そば店での「水まわし」・「くくり」の状況は、大きく分けて2種類あります。

一つは、江戸以来綿々と受け継がれてきた木鉢を使った手によるもので、 労力と技術が必要とされる方法。全そば店の2割弱に当たる美味しいと評判のたつ老舗や手打ち店がこの手法をとっております。
もちろん当店も、創業以来手揉み一筋でございます。 

もう一つは、戦後昭和20年代に普及した混合機(ミキサー)を使用する方法で、 全国8割強のそば店はこの手法をとります。 「バラガケ」と呼ばれる平均的な混合機の使用方法は、大きなミキサーに粉を入れ、
水を加えてかき回すもので、便利と言えば便利ですが、力加減ができないばかりか、「くくり」の作業が省かれてしまいます。

「くくり」はローラーによって押し固めるしかなく、手による工程の踏襲とは言い難いものになります。
パワーによって固められた麺帯は、どうしてもソフト感はなく、汁をはじいてしまうようです。
「手作り」は、水まわしとくくりが悪いと長い麺のそば切りになりませんが 、「機械製」は大抵そばになってしまうので始末に悪いと言えます。

「美味しいお蕎麦の基本は木鉢だ」と話された、今は亡き並木の藪そば、堀田平八郎氏の言葉が思い出されます。今後、手作りが人的問題で一般的でなくなるとすれば機械を使わざるを得ない時代が来るでしょう。しかしそんな時こそ蕎麦店の店主は、木鉢の原理を理解した上でこれを機械打ちそばに取り入れる努力が、「美味しいお蕎麦」作りに欠くことができない事となると考えます。

事実江戸より続く大店老舗そば店のほとんどは「木鉢もみ、機械のばし、機械切りそば」なのです。