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2004年8月 第49話  店主の悩みその2

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「私の商売、蕎麦屋でござ~る、おかめ、てんぷら、玉子とじ、いつも汁じゃ~苦労~~する」

こんな「どどいつ」があるように蕎麦店の主人はそば汁作りには最も気を配っています。

以前にもお話しいたしましたが、そば汁は千差万別、蕎麦屋が100件あれは100種類の汁が出来上がります。ご存じのように蕎麦は汁に浸けて食べるものですのでそばの味はそば汁の味となります。
その為に蕎麦店のアイデンティティーはそば汁の味となるわけです。

ですからそこには店の意志や哲学が生まれますし、技術は伝承され代々の味となり受け継がれて参りました。
作り手が言うのも偉そうな話ですが、一朝一夕ではできない技術がそば汁には必要なのです。

当店でも社員に対しそば作りはすぐに教え始めますが、汁は店主か店主が良しとした職人にしか教えません。適性もあるのでしょうがやり方だけを伝授しても同じものが作れないのがそば汁なのです。

「見せてみて、言って聞かせて、させてみて・・」ではありませんが時間と経験が必要な技術なのです。
子供の頃から味を仕込まれ、25年毎日そば汁を作り続けている私でも、お恥ずかしながら体調によって満点を出せない汁もある次第です。そば汁作りは「出し取り(鰹節のだし作り)」と「合わせ(醤油と味醂、砂糖の配合)」が両輪となる技術ですが、その日の気圧や湿度の状態によるだし汁の濃縮度合いは微妙な火加減や経験を無くしては一定に出来ませんし、材料の配合には繊細な舌の感覚が不可欠となります。

どれも受け継がれ蓄積された経験がいる訳で、1代や2代で完成されるとは思いません。
先代からの教えが綿々と引き継がれるところが面白さと同時に難しさと感じる昨今です。
以前にもお話を差し上げましたが、教えられたとおりの方法だけに縛られると、原材料の変化によって味は変わります。「教えられたとおりの方法を続けるのではなく、教えられた味を保つ」事が伝統を受け継ぐことでありもっとも重要に成ります。
その受け継がれる技術も定型的なものばかりでなく、間違った時・気に入らない時の直し方まで多岐に渡る奥深さがあるのが「汁作り」です。独自のそば汁の一層のグレードアップを計り、技術と感性を磨くことが引き渡すまでの責任と思いますが、なかなかフルモデルチェンジとまではいかずマイナーチェンジの繰り返しと言うところが老舗の宿命かも知れませんが「継続は力なり」の格言のごとくもがいているのが現状かもしれません。 「皆様のお口に馴染んだ味に沿いながら」を念頭に置いておりますが、お気づきの点があれば何なりとお聞かせいただけると励みになることと思います。よろしくお願いいたします。