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2017年6月 第135話 鰻か?穴子か?

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梅雨入りが近づくこの時期ですが、今年も夏本番の暑さの中に「土用の丑の日」がやってきます。

江戸暦の二十四節気で言う所の土用とは立春・立夏・立秋・立冬の直前の約18日間をさす雑節の一つですが、現在は夏の土用だけがクローズアップされ「鰻を食べる日」となっています。実際の土用の丑の日は各節気にあり、最低でも年4回はある訳です。夏の土用は秋の始まる立秋の直前の18日間となり、今年は2回(7/25と8/6)ある鰻を食べる土用の丑の日です。

今では高級魚の鰻ですが江戸中期までは油が強すぎる下品な魚として酷評され、調理方法もぶつ切りにしたものを串に刺して焼いていました。この形状が「蒲の穂」に似ている事から蒲焼と称されていましたが、この調理法ですとただでさえ油の多い鰻の油が落ちずに、さっぱりした食べ物が好まれる夏場には敬遠され鰻屋さんには閑古鳥が鳴いていたそうです。(ちなみに今のような蒲焼は天保年間1790年位に上方で考案されました)と言った訳でこれを何とかしてほしいと泣きつかれた天才学者の平賀源内が「土用の丑の日に『う』の字のつく食べ物を食べると夏負けしない」と言う俗信と鰻を結びつけ大当たりをし現在に至る習慣を定着させたと言われています。

しかしながら現代では鰻の旬は脂の乗る秋から冬です、旬でない夏に鰻がもてはやされたのは江戸時代の人々が現代人よりさっぱりした味を好んだからなのでしょう。これも今では高級の極み「大トロ」も捨てられていた部位と聞きます。時代により味覚の差はありますが、やはり食材は旬が美味しい事には変わりはないと思います。夏の食材で旬と言えば「梅雨穴子」と言う言葉でも有名な穴子です。

穴子の旬は夏の6~8月と言われ、この時期は余分脂が少なくさっぱりとした味わいが楽しめます。しかし冬の11~12月の穴子の方がおいしいと言う職人さんもおり、好みが分かれる魚でもあるのだとか。穴子に限らず、一般的に魚は最も脂が乗っている時期を旬とする事が多いようですが、穴子は淡白な味わいが良いとされその味が好まれる珍しい魚でさっぱりと食べられる夏場が旬とされているのです。穴子は高タンパクで、動脈硬化を防ぐ効果もあり豊富なビタミンAと鰻の半分の低カロリーで栄養面でも夏バテ防止には最適なのです。

19世紀に入った江戸後期のレシピ本「素人包丁」には蒲焼きを筆頭に田楽、付け焼き、茶碗蒸し、あんかけ、味噌かけ、味噌煮、寿司、吸い物、天ぷら等、幅広い料理法が紹介され、歌川広重の描いた東海道五十三次「品川 鮫洲朝之景」にも茶屋の行灯に阿名呉「アナゴ」の文字が見られる程夏のポピュラーな食べ物なりました。当店ではなるべく大ぶりで肉厚の穴子を選びカラリと天ぷらにしてお出ししています、ぜひご賞味を。

穴子の宣伝だけでは片手落ちですので鰻の情報も一つお伝えしますと、前述した古来の調理法、ぶつ切りの「蒲の穂焼」ですが、日本橋の名店「いづもや」さんが再現して販売されています。上手に油を落とした逸品だと思います。