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2006年11月 第75話  そば汁のつけ方

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お蕎麦を食べるとき何処までそば汁を付けるかという議論がよくされます。
落語でも「死ぬ前に、一度で良いからそばに汁をたっぷり付けて食べてみたかった。」と言う蕎麦好きの噺がありますが、 皆さんはどの位汁を付けてお食べになるでしょうか。

私どもが考えるには、汁を何処まで付けるかは蕎麦次第。
蕎麦によって変わるものと言うことになります。蕎麦店ではその店の蕎麦の状態にあわせて汁をこしらえております。

落語の一節は、きっとお近くに「藪そば」しか無く、「更科」も「砂場」も無かったからではないでしょうか。
蕎麦を汁の中に浸して、かき回して召し上がっても無粋でもなければ、行儀が悪いわけでもありません。
ただこれを「藪そば」でやると、辛い汁が蕎麦全体にしみ込み蕎麦の佃煮を食べることになりますし、汁もすぐ無くなってしまいます。

逆に、生粉打ちの細切りの蕎麦に穏やかな汁を付けては蕎麦がかわいそうです。
汁にあった蕎麦、蕎麦にあった汁を蕎麦店では独自の考えで決めておりますので、お蕎麦が運ばれてきましたらまず汁を少し舐めてみることをお薦めします。 「この汁の甘さ、辛さなら、何処まで付けようか」をお好みにあわせて決めていただければ間違いはないはずです。

もし蕎麦は美味しいのに汁と合わなかったら、汁を付けずにお食べになるのも一考です。
ただその場合も汁は残さず、そば湯を差して飲んでいただければ嬉しく思います。
そんなときにはお酒でも取り、酒のつまみに蕎麦を食べるのもなかなかおつなものです。
蕎麦が乾いたからとお酒をかける方がおられますが、それはちょっと行き過ぎで蕎麦が酒臭くなります。
箸の先をお酒に浸し、湿った箸でほぐしながら食べるのが蕎麦通かと思われます。
水が切れた乾き気味のお蕎麦も美味しゅうございます。一度召し上がってみて下さい。
蕎麦とはこんなに甘いものかと気付かれるはずです。

お話ついでに蕎麦を食べるときの音ですが、食事の時に一切音をたててはいけないことになっている禅寺でも、蕎麦だけは例外だそうです。蕎麦店のご主人連中が集まって蕎麦を食べるときの音と言ったら、驚くべき大きさとなります。
汁の付け方は色々あるものの、食べ方だけはつるつるとすすり込むのが粋ですし、お蕎麦を美味しくするものではないでしょうか。