2026年9月 第197話 江戸の食暦(秋編)
食欲の秋とは「四季の中でも秋が最も食欲のわく季節」という意味の言葉です。
「味覚の秋」や「実りの秋」という意味合いもあるように、秋は米や薩摩芋や南瓜などの作物や、柿や栗や梨やぶどうといった果物が実り、サンマや鮭をはじめとする魚にも脂がのって食べ頃を迎える季節です。
紹介も盛りだくさんとなりますが9月の先陣は「サンマ」です。漢字では「秋刀魚」と秋の字も入る魚で、秋風と共に北大西洋やオホーツク海から産卵の為に北海道沖や三陸へ南下してきます。脂の乗ったこの海域のサンマは淡塩を振って江戸へ運ばれるのですが、船にゆられる間に程よく塩が馴染み、天下一の美味に仕上がったそうです。江戸っ子はこれを「半塩のサンマ」と呼び最高の塩加減の焼き魚として大人気でした。とある大名が目黒の農家で食べたのもこのサンマで、普段屋敷で食べる焼いた上に蒸し、骨まで抜いた出し殻のようなサンマとは雲泥の差で、ため息と共に「サンマは目黒に限る」と言ったのが、かの落語の噺です。二つ目は秋の山第一の香り高き美味「松茸」、赤松の根元で多く取れるとされ「料理物語」なる江戸のレシピ本では汁・和え物・煮物・焼いて食すと書かれている。江戸周辺には赤松が少なく主として上方から運ばれ、決して安価ではなく町人下級武士の口には入り難しと記録されています。
10月は何をさし置いても「蕎麦」と言いたい所ですが、蕎麦はまとめて次回お話するとして「鮭」からスタートです。秋から冬にかけてが旬となり北の海で5~6年過ごした後生まれ故郷の川に戻り産卵をするこの魚、北海道特産と思われますが、江戸期には関東の河川にも上ってきており「江戸の生鮭は利根川が良し」とされ人気がありました。食べ方も焼き物、なます、蒲鉾と多岐に渡りますが、保存にも適した「塩引き」と言う現代にもある塩鮭が最もよく用いられました。腹中と皮に塩を塗り、顎から口へ縄を通しつるす姿も今と同じでしたが、味は現代より数段塩辛いものだったとの事です。10月二つ目は山芋を下してすり鉢であたり、出汁でのばして醤油で味を整えたネバネバ、トロトロと言う食感と喉越しが江戸っ子好みの「とろろ汁」を選びました。江戸期は日本原産の自然薯を山芋と呼びましたが、実は山芋という品種はなく「やまのいも」という総称の下に長芋、大和芋、いちょう芋、自然薯とに分類されています。
現在は南方原産種である長芋や中国原産種である大和芋も総称して山芋と呼んでいます。いずれにせよこのとろろ汁は消化に役立つ酵素が豊富に含まれており滋養強壮の効能が絶大とされ、その人気を表す多くの句の1つが「冷や飯を四、五杯借りるとろろ汁」はいくらでも腹に入るとろろ汁なのでつい隣家から冷や飯でもいいので借りる羽目になったと言う句。飲んでも飯にかけても良しのとろろ汁、
お蕎麦にも上からかけても汁に付けても美味です




